特別編集記事
ピークタイム クレーム&トラブル そのとき店長はどう対処する!
「クレームは宝の山」という言葉があります。お客様の不満を受け止めて分析し、同じクレームを繰り返さない努力をすることで、顧客満足度は向上します。飲食店においてクレームが全くなくなることは考えられませんが、お客様の立場に立って冷静に謙虚に対応すれば、そのほとんどは解決可能です。誠意とスピード(初期対応)をもって臨めば、再利用率は上がるというデータもあります。「クレームこそファンを増やすチャンス!」と考え、この特集で対応のスキルを身につけて苦手意識を克服し、自信をもって対クレームに臨んでください。
苦情対応、4つの基本
1.誠実な態度で謝罪する
お客様に不快な思いをさせたことに対し、まずは深くお詫びをします。絶対に言い訳や口論をせず、謙虚に、丁寧に、謝罪の意を伝えること。あなたの第一印象も大切です。身だしなみを整え、手を前できちんと組み、姿勢を正し、誠実で真剣な態度を全面に出してください。
2.お客様の言い分を聞く
苦情の内容を伺う時は、口をさしはさまずに徹底して聞き役に回ること。いつ、どこで、何が、どのようにして起こったのか、謙虚な態度で注意深く聞き、事実確認をしてください。うなずく、相づちをうつなど、お客様が話しやすくなるような気配りを忘れずに。
3.迅速に対応する
小さなクレームのように見えても、初期対応がまずいと大きなトラブルに! すみやかな対応が解決への第一歩です。どんなにささいなことでも、すぐにP/Aから店長に報告させるよう習慣づけましょう。解決したら、クレームをいただいたことへの感謝の言葉も述べること。会計時には店長があらためて謝罪とお礼を。苦情がおさまらない場合は、時にはご自宅等を訪問してお詫びするなど、お客様が納得するまで誠実な対応を続けてください。
4.上司・本部に報告する
上司・本部へは、苦情内容・原因・対応内容を正確に伝えること。場合によっては上司があらためてお客様に謝罪したり、お詫び状を送ったりする必要があります。経験豊富な上司の対応により、お客様に安心・納得していただくことが可能となります。問題解決が難航した際の対策として、(1) 場所を変える (2) 人を変える (3) 時を変える、という3原則があります。これをうまく活かして、お客様の気持ちをやわらげてください。
<クレーム対応スキル チェックリスト>
- 「クレームはチャンスである」と前向きに考えていますか?
- 初期対応が最も大切だと認識していますか?
- まずは誠実な態度で謝罪することを心がけていますか?
- お客様が感情的になっても、冷静さを失わずに話を聞くよう心がけていますか?
- 自らの「態度」「表情」「声」に気をつけて、謙虚にお客様の言い分を聞いていますか?
- 苦情内容を正確に把握するため、メモ・復唱・確認をしていますか?
- 迅速な対応を意識していますか?
- P/Aから店長に対し、どんなささいなことでも報告するよう習慣づけていますか?
- 苦情がおさまらない場合は、お客様が納得するまで誠実に対応し続けることを心がけていますか?
- 解決した場合、クレームをいただいたことに対し、お礼を述べていますか?
- 上司や本部に対し、すみやかにクレームの報告をしていますか?
- クレーム再発防止策を検討・実施し、今後同様の問題が起きないように徹底させていますか?
ここまでやる! 伝説のドアマンの対応例
大阪に「伝説のドアマン」と呼ばれている人がいる。名田正敏さんという方で、拙著「実力店長はここが違う!」(商業界・出版)にも登場する。その中の一大クレームに関するエピソードを紹介しよう。名田さんが苦情処理部長に就任して早々、ある結婚披露宴の席で大きな問題が発生した。出席者の一人である女性の校長先生の着物に、従業員がワインをかけてしまったのだ。仕立てたばかりで初めて袖を通した、高級色留袖だった。その場は汚れを拭くだけで済ませたのだが、時間が経つにつれて変色し、帰宅された時には明らかにシミになっていた。着物を購入したデパートでは対応してもらえず、ホテルへ電話をしたが、何かの連絡ミスで返答がなかったため、その女性の怒りは頂点に達してしまった。そんな事態になってから、ようやく名田さんに連絡が入った。名田さんはすぐさま女性宅を訪問したが、まだクレーム対応に不慣れで、事情もはっきりとつかめていない状態だったため、全く話を受け付けてもらえなかった。その後7回も訪問したのだが、取りつく島もない。何度も電話をし、やっとのことで8回目のアポイントをとった。ご夫婦で旅行に出発される直前の、早朝6時、名田さんは打ち水された玄関に土下座をして「本当に申し訳ございません。お許しください」とひたすら謝った。びしょ濡れのズボンも厭わず、ただ頭を下げ続けたが、その女性はまだかたくなな姿勢を崩さなかった。その時、奥でその様子を見ていたご主人が出てきて、名田さんのズボンを拭いてくれたのである。そしてご主人の執り成しにより、ようやく話し合いの場が成立した。名田さんは必ず元通りの状態にいたしますと約束し、着物をお預かりして帰った。すぐに染み抜きの専門家に依頼してお客様の納得のいく状態に戻し、やっと許していただくことができた。それ以降このお客様は、名田さんのホテル人生が終わるまで、生涯のお客様としてずっと贔屓にしてくださったのである。
実力店長はこう対応する! ケース別Q&A
■商品の提供が遅い
Q.「いつまで待たせるの!?」と言われたら?
A.飲食店のクレームの中で最も多いのが、料理の提供時間の遅れ。特に休憩時間の限られているランチタイムは、少しの遅れでもお客様はいらだちます。遅れが出はじめたら、できる限りクレームが出る前に所要時間をキッチンで確認し、すみやかにお客様に伝えて安心していただくようにしたいもの。日頃からお客様の表情や仕草を見て気配りをしていれば、クレームが発生する前に対応できるはずです。料理を提供する時には「遅くなりまして誠に申し訳ございません」と謝罪を。時には、お詫びにワンドリンクサービスなどの対応も。会計時にはあらためて店長が「ご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした。今後このようなことがないよう十分に注意いたします」と謝罪しましょう。
■商品の鮮度・品質の劣化
Q.料理が腐っていると言われたら、どう対応すべき?
A.「すでに食べてしまったが、料理の味がおかしかった。腐っているんじゃないか。妻は妊娠しているかもしれない。万が一のことがあったらどうしてくれるんだ」…これは、ある実力店長が実際に体験したクレームです。まずは深くお詫びしてすぐに料理をチェックし、病院に同行しました(もちろん治療費はお支払い)。幸い大事には至らなかったものの、毎日のようにご自宅を訪問したり電話で様子を伺うなど、徹底して対応しました。その誠意が伝わり、今では常連客になっていただいたそうです。あってはならないことですが、もしもこのようなことが起きたら、この店長のように徹底した姿勢で臨んでいただきたいものです。
■異物混入
Q.「料理に髪の毛が入ってる!」とお客様。…どうしよう?
A.髪の毛や夏場の虫の混入は、注意をしていても起こり得ます。人間の髪は1日70本も抜けるといわれているので要注意。まずは異物を確認し、「誠に申し訳ございませんでした。すぐにお取り替えいたします」と謝り、同じ料理でよいかどうかをお聞きした上で、すみやかに作り直して提供します。料理長も一緒に謝罪することをおすすめします。お待ちの間はドリンクサービスなども。料理を作り直した場合は代金をいただいてもよいのですが、作り直しを拒否されたら、いただかないほうがよいでしょう。お帰りの際には店長が再度「本日は大変ご迷惑をおかけし、深くお詫び申し上げます。今後十分に注意し、従業員教育を徹底いたします」と、謝罪の言葉を述べるようにしましょう。
■見本と実物とのギャップ
Q.サンプルメニューとの違いを指摘されたら?
A.「メニュー写真のほうがボリュームが多いけど、どうなってるの?」…こんなクレームが出たら、まずは「失礼いたしました。料理長に確認してまいりますので、少々お待ちください」とお詫びし、すぐに確認を。店の基準通りに料理が提供されていた場合は、「申し訳ございませんが、この料理は通常通りにご提供させていただいております。別のメニューにお取り替えいたしましょうか?」と説明します。必要に応じて、料理長からも説明してもらうようにします。会計時には「本日は貴重なご意見をありがとうございました」とお礼を述べること。もちろん実際に不手際があった場合はしっかりと謝罪しなければいけません。サンプル通りに作ることを徹底させましょう。サンプルそのものに無理や問題があれば、すぐに修正します。
■備品の不備やオペレーションミスによるケガ
Q.グラスの破片で口の中を切ったお客様が! どうすればいい?
A.お皿やグラスのひび割れや破片で、お客様がケガをするというアクシデントも皆無ではありません。すぐに謝罪して応急処置をし、状況によってはすみやかに医療機関に同行しましょう。恥ずかしながら筆者の店長時代(20代)に実際に起こった、しかもグランドオープンの日に起きたトラブルを紹介します。店内がごったがえしている最中に「店長、お客様がトイレで大変なことになっています!」という報告が入りました。慌てて駆けつけると、洗面台が血に染まっています。何が何やら分からず、とにかく救急車を呼んで病院へ。ビール瓶の破片で喉を切り、出血したとのこと。このお客様の近くで不慣れなアルバイトがビール瓶を落として割ってしまい、その破片が料理に混入したためでした。何度もご自宅を訪問してひたすら謝罪し、こちらの気持ちを汲んでいただくことができ、その後この方は常連客になってくださいました。それ以来、従業員が何かを落としたり割ったりした時は必ず、近くのお客様の料理を取り替えるようにしました。読者の皆さんも参考にしてください。
■お客様の不慮の事故や病気
Q.お客様が店内で転んだ! こちらに落ち度はないけれど…?
A.ある実力店長の実例です。年輩のお客様が突然店内で倒れました。ご本人は大丈夫と言うのですが、心配した店長は救急車を呼びました。医師の話では、もう少し手当が遅れたら命が危なかったとのこと。このお客様は店長を命の恩人と考え、以来常連客になったそうです。また、急性アルコール中毒などで突然トイレで倒れてしまうお客様もいます。意識の有無を確認し、意識がない時はすぐに救急車を呼ぶなどの緊急措置を。お店に落ち度がなくても、店長は店内で起きたことに責任をもつ必要があります。適切に対処することで、お客様の命を救うこともあり得るのです。
■店内や店のまわりでのケガ
Q.お客様がガラスに突っ込んでケガ! 店の責任…?
A.筆者の部下の店(郊外のファーストフード店)で実際にあったことですが、あるお客様が大型のドアにガラスがはまっていることに気づかず、そのまま突っ込んでガラスが割れ、軽いケガをしました。ガラスがピカピカに磨かれていたためで、それ自体は素晴らしいことです。しかし店側としてはお客様の体の心配をするのが何よりも重要。すぐに謝罪し、病院にお連れしました。その後入口ドアにステッカーを貼り、全店にも通達して再発防止に努めました。一見責任がないように見えても、店の努力次第で防げる事故はあるのです。どんなトラブルでも、原因を追及して早急に対応しましょう。
■騒ぐお客様、「何とかしろ」と言うお客様
Q.「隣のお客がうるさい!」という苦情には、どう対応すればいい?
A.居酒屋などでグループ客が盛り上がり、大騒ぎをすることがあります。隣のお客様にとっては迷惑に感じることもしばしば。グループ客の盛り上がりに水をさすような注意はできず、困ってしまうケースが多いのでは? こういう場合はリーダー格の人をそっとお呼びし、「申し訳ございませんが、もう少しボリュームを下げていただけませんか。他のお客様もいらっしゃいますので」と、やんわりした言い方でお願いするのがいいでしょう。また、席にご案内する段階で気遣いをすれば、トラブルが起こりにくくなるでしょう。
■お客様の衣服を汚す
Q.お客様の服にソースが! どうしよう!
A.まず最初にするのは、お客様の体を気遣うこと。「大変失礼いたしました。申し訳ございません。お体は大丈夫ですか? 火傷などをなさっていませんか?」と、謝罪および確認をし、すぐにお絞りや新品のダスターで拭きます。まずはこれだけの対応をすみやかに行ってから、クリーニング代を支払う話をしましょう。グズグズしているとシミになってしまうこともあるからです。ケガなどをされた場合は病院へ行くことをおすすめし、またご自宅までお見舞いに行くなど、とことん誠意をもって対応してください。
■お預かり品の紛失
Q.「私のコートを返して!」と言われ、困ってしまいました…
A.お預かりしたものをなくした場合は100%店の責任です。間違って他のお客様が持ち帰った場合などは連絡がある可能性があるので、名前と連絡先をお聞きします。酔って靴などを間違えるお客様もいます。これもある実力店長の実例ですが、お預かりしたコートを紛失してしまったことがあるそうです。女性のお客様で、一番のお気に入りの高級なコートだったため、とても許してもらえそうにありませんでした。その日はとても寒く、ひとまず店長のコートを着て帰っていただきました。その後ご自宅を訪問しても会っていただけず、玄関先で1時間も待ったことも。とにかくお詫びを繰り返し、色やデザイン、サイズを伺って、毎日のようにデパートを探し歩き、やっとよく似たものを見つけてお届けしたところ、お客様は輝くような笑顔を見せて、お礼を言ってくださったのです。ここまで誠実に真剣に対応するからこそ、実力店長といわれるのでしょう。
■忘れ物への対応
Q.バッグを忘れたとの電話が入り、探したけれど見つからない!
A.店に忘れ物をしたという連絡が入るのは珍しいことではありません。問題は探しても見つからなかった時です。どのようなバッグを、いつ、どの席に忘れたのかを確認します。お客様の勘違いもあるので、しっかりと思い出していただくようにしましょう。ただし「勘違いではありませんか?」という言い方は避けてください。間違って持ち帰った人がいるかもしれませんので、後日連絡がとれるようにお名前と連絡先を聞くのを忘れずに。お預かりしたものではないので、基本的には弁償の義務は生じませんが、誠実な態度と言葉遣いで対応しましょう。
■従業員の態度が悪い
Q.「どんな従業員教育しているの?」と言われ、困った!
A.提供時間の遅れと並ぶ2大クレームのひとつが、この従業員の態度。でも実際にはこれが最大のクレームでしょう。なぜなら、従業員の態度が気に入らないお客様の多くはそれを口に出さずに二度と来店しなくなり、表に出ない隠れた数字が膨大にあると考えられるからです。口に出す時はよほど腹に据えかねた時といえます。店長はとにかく「誠に申し訳ありません。おっしゃる通り、私の教育が至らないためです。今後このようなことがないよう、しっかりと教育いたします」と、心からお詫びしましょう。また具体的なご意見なども伺い、「貴重なご意見をありがとうございました。今後の教育に役立たせていただきます」とお礼も述べるとよいでしょう。