特別編集記事
「EQの高い店長はここが違う!」
EQは“Emotional Intelligence Quotient”の略で、直訳すると「感情知能指数」となる。相手の気持ちを感じ取れる能力のことで、一般的に「心の知能指数」といわれる。現代のビジネスに求められる能力の割合はIQ2割、EQ8割といわれるほど、重要な能力だ。EQが高い人とは、「いつもあなたのことを考えています」というメッセージを相手(お客様やP/A)に伝えることができる人のこと。私は本誌『実力店長はここが違う』シリーズで100人もの実力店長を取材してきたが、どの人にも共通する能力として強く印象に残るのが、このEQの高さである。人間的な魅力もこの能力から生み出される。 EQの高い店長は、部下に対して常に次のようにコミュニケーションを図っている。
- 相手に関心を持つ。(常に話しかける。すれ違うだけでも必ず声をかける)
- 笑顔がすばらしい。(店長の笑顔はP/Aに伝染する)
- 徹底的にほめ、叱った後はフォロー。(朝礼などで拍手で称賛。叱った後は君なら大丈夫、次からちゃんとできると励ます)
- 感謝の気持ちを心から伝える。(いつもありがとう、君がいてくれて助かった等)
- 常にポジティブな言葉を使う。(ポジティブな言葉は気持ちも前向きにさせる)
- 何でも話せる雰囲気があり、相手の悩みを引き受けて一緒に考える。(親身になれる)
ではここで、これまでに取材してきた店長の中で、特にこのEQの高さが印象に残っている人たちを紹介しよう。
「カシータ」の柳沼店長
奇跡のレストラン「カシータ」の柳沼店長は、プロポーズするカップルのために、女性の故郷新潟の雪を自力で運び、テラスに雪を敷き詰めるという演出をしたスゴイ店長だ。また諸事情で挙式できなかったカップルのためにチャペルを造ってフラワーシャワーで迎え、結婚証明書まで用意して、素敵な結婚式を演出したこともある。柳沼店長は3年ぶりに来店した私のことを、3年前に交わした会話に至るまで覚えていた。実に嬉しかった。そんなことができるのは、お客様との会話の内容を毎日手帳にメモしているからだ。2日でメモ帳を1冊使ってしまうほどメモの量は膨大だ。彼はこうやって500人ものお客様の顔と名前を胸に刻んでいる。そんな店長自身の夢は、大好きな現場で究極のホスピタリティを追求し、スタッフの人生の喜びとお客様の幸せを同時に実現できるレストランを創り上げること。いつも人の喜びと幸せを願っている店長なのだ。
「カフェ ラ・ボエム」の原店長
売上前年比128%を継続している原店長は、取材の際に顔を合わせるなり「田中様のホームページを拝見し、お会いできるのを楽しみにしていました。今日は勉強させてください」と笑顔で迎えてくれた。気分よく取材に入れるような気遣いに感服した。この店のバースデー予約は月100件以上。幸せな気分にさせてくれる演出が大人気なのだ。BGMが止んで照明が消えると、ケーキやデザートプレートが用意され、スタッフ全員がお客様のテーブルを囲み、ハッピーバースデーの曲をハーモニカの生演奏と歌でプレゼントするのだ。感動のあまり涙を流す人もいるし、スタンディング・オベーションが起こることもある。原店長はP/A採用の面接時に「人を喜ばせることが好きか」を尋ね、大切な人を喜ばせたエピソードを語ってもらうという。大切な人を喜ばせることのできる人は、顧客にもそれができる。バースデーの素敵な演出もそのひとつなのだ。
「がんこ炉ばた料理」の藤井支配人
7年も前の取材なのに、どの店に異動してもたちまち売上を120%アップにしてしまう驚くべき手腕が強く印象に残っている、超実力店長だ。藤井支配人は法人を中心に宴会の営業を猛烈に展開。積極的にお客様と名刺交換し、翌日すべての会社を訪問。これを毎日3時間実施したのだ。この徹底ぶりはスタッフに対しても発揮された。50人のP/A全員と毎日交換日記。毎月の給与明細書には心を込めた手紙を添える。月2回の全体ミーティングでは一人ひとりの目標や成果を発表させてやる気を促す。朝礼や業務別ミーティングは毎日実施。個人のカウンセリングも欠かさない。仕事を通してP/Aが人間的な成長を遂げることを願い、真剣に彼らと向き合っていた。当時若干25歳の若さでここまで徹底してやり抜いていた彼はその後独立し、現在は繁盛居酒屋3店舗のオーナーである。店長として成功する人は独立しても成功する、そのお手本のようなリーダーだった。
「わたみん家」の佐々木店長
雨の日も台風の日も満席の超繁盛店を楽しく切り盛りするのは、店内独立制度で独立した佐々木店長だ。「どうすればスタッフが楽しみながら仕事ができるか、本気になれるか、そのことばかり考えています。売上は気にしていません」と笑顔で語る。P/Aの誕生日にやむをえず出勤してもらった場合は、お客様と同じようにケーキを用意し、お客様も参加してバースデーを祝う。この店には従業員もお客様もない。全員が家族なのだ。
あるとき転勤で大阪に戻る常連客の送別会が行われた。佐々木店長はユニークなコスプレで登場。はなむけにそのコスチュームをプレゼントし、その常連客を感激させた。そして彼は今でも出張のたびに来店してくれる。そんなファンをいっぱい持っていて、感動話の絶えない店長である。
「KICHIRI(きちり) 」の山口店長
山口店長は「心を全力で表現し、人としての成長を図る」という店長方針を掲げている。「常にお客様のことを想い、チームワークを駆使して家族のようにあたたかいおもてなしをしたい。大好きがいっぱいの店にしたい」との言葉通り、店内はあたたかい空気と感動に満ちていた。何しろ、店長自身が毎日のように感動を味わっているお店なのだ。この店のスタッフの向上心やお店に対するロイヤリティの高さには目を見張るものがある。冷蔵庫の棚割表を作ってきてくれるスタッフ、外国人客も多いことから英語のメニューを作ってくれたスタッフ、全体ミーティングの議事録を作ってくれたスタッフもいる。すべて自主的にやっているのだ。週7日シフトインしたいという男子大学生アルバイトもいるそうだ。店長の気持ちがみんなに浸透している、ステキなお店だった。
「三間堂」の岸女将
毎年売上を確実にアップさせている辣腕女将が日ごろ最も気を遣っているのは、「お客様には絶対に不満を持ったままお帰りいただかない」ことだ。常に店内156席をこまめに回り、お客様の表情や仕草を見ながら満足度を確認している。問題がありそうな時はすぐに駆けつけ、すみやかに対応する。全体を眺めながらさりげなくスタッフをサポートし、お客様を満足させるのが、女将の重要な役割だという。また、この店には得意分野を持つP/Aが大勢いて、それぞれ呼び込み名人、気配り名人、ラストオーダー名人、ご案内名人、笑顔名人などと呼ばれている。得意なことができると、やる気はますます高まるものだ。P/A一人ひとりの良さを最大限に引き出のも、店長の重要な仕事の一つだ。
EQの高い店長たちの共通点は、いつも自分よりも相手のことを大事にしている点だ。EQの高い人を目指すなら、大事にする比率を自分が3、相手が7と考えていただきたい。自分が「認められたい」気持ちが3で、人を「認める」気持ちが7という言葉に置き換えることもできるだろう。私たちはともすれば自分が認められることばかり優先しがちだが、認めることによって相手が喜んでくれることを忘れてはならない。人の心を動かすなら、まずは相手を認めることから始めたいものだ。今回ご紹介できたのはほんの一部のEQの高い店長たちだが、その姿勢や行動が、皆さんにとってよき指針になることを願う。
EQを強化するためのチェックリスト10項目
- 意識してポジティブな言葉を使う。 「大好き」「うれしい」「ワクワクする」「ついてる」「すばらしい」
- 1日10回、「ありがとう」を言う。 「ありがとう」はEQを象徴する言葉であり、最も美しい言葉である。
- 1日1回、誰かのサポートをする。「一日一善」
- 拍手でP/Aを称賛する。 朝礼やミーティングで、がんばったP/Aを拍手で称賛しよう。
- 笑顔で明るく、大きな声で全員にあいさつする。 ワンスマイル・ワンメッセージを習慣化しよう。
- 毎日、全員のよいところをほめる。 ほめ言葉をたくさん使って、周囲を元気づけよう。
- 相手の話をしっかり聞く。 相手との心の距離感を縮めよう。
- 苦手な上司や同僚に、笑ってあいさつする。 笑顔であいさつすることで、相手との関係をより良好なものに変えていこう
- やりたいことを予定表に書き込む。 やりたいことを意識することが、EQを高めるうえでとても大切。
- 積極的に握手をしよう。 相手との親近感を生み出すために、握手を上手に活用しよう。
スーパー店長の指導力と明確なランクアップ制度によってP/Aを戦力化すれば、このようなスーパーアルバイトが誕生するのである。あなたの奮起に期待する!