特別編集記事
Ⅰ 店長のリーダーシップ
リーダーの条件 ~私が出会った実力店長から~
「リーダーシップ」とは、指導者としての資質・能力・力量・統率力のことである(広辞苑より)。私の考える真のリーダーシップとは、スタッフがのびのびと働けて成長できるような環境を、常に提供する力のことだ。店長に求められるのは、店の改革のために自ら先頭に立って行動し、P/Aや部下社員を励まして、よりよい店づくりを進めていくパワーである。この人についていけば、仕事が楽しくなるし自分が成長できると、スタッフに思ってもらえるような店長でありたいものだ。成功したマネジャーについて、ハーバード大学が成功の要素を調査したところ、①専門技術5%、②専門知識10%、③態度・姿勢・人との接し方85%という結果になった。リーダーの重要な要素は、技術や知識よりも人間性ということだ。元アサヒビール社長・樋口廣太郎氏も、「声が大きくて、ニコニコと明るくて、チョッピリ知性があれば、大概のことはうまくいく」と人間性重視で、リーダーへの道をアドバイスしている。
リーダーシップ発揮の心得と具体的方法
では、店長としていかんなくリーダーシップを発揮するにはどうすればよいか。以下、具体的な方法を挙げたので、参考にしていただきたい。
- 模範的な身だしなみ・態度を心がける
- 朝も夕も店長自ら率先して笑顔で挨拶し、先頭に立って顧客満足の向上に努める
- 自由と規律のバランスを重んじ、明るい店づくりに努める
- どのP/A(部下)にも公平に接し、毎日全員とコミュニケーションをとる
- 常に店のチームワークづくりに配慮する
- P/A(部下)一人ひとりの強みを見つけてほめ、時には厳しく指導する
- P/A(部下)一人ひとりにチャレンジ目標を与え、成功を心から喜ぶ
- できるP/A(部下)には、権限を与えていく
- P/A(部下)の悩み事を親身になって聞き、共に解決しようと努力する
- P/A(部下)との約束はきちんと守り、P/Aにも守らせる
- フードサービス業の技術・知識の向上に努める
- 店の問題点への対策を、P/A(部下)と一緒に考える
新しい時代のリーダーシップ
トム・ピーターズの著書「マニュフェスト」(ランダムハウス講談社)の中に、「リーダーシップの過去と現在」という章がある。これをもとに、新しい時代に生き残る新しいリーダーの姿をまとめてみた。
過去 | 現在 | |
指令と統制・統治 | → | 説得と拍手・励まし |
計画・計画・計画 | → | 実践・実践・実践 |
命令・指示・手出し | → | ヒーロー発掘・才能育成・任せる |
トップダウン式 | → | 草の根式 |
規則・管理・人が重要 | → | 人間関係・権威委譲・人がすべて |
命令・統制・トップダウン式・管理は、もはや古い時代のリーダーシップ。賞賛・共感・草の根式・ヒーロー育成が、これからの時代を担う新しいリーダーの姿勢なのだ。南アフリカ共和国のネルソン・マンデラ大統領は、著書の中で「リーダーは羊飼いのようなもの」と語っている。羊飼いは、いちばん機転の利く羊を先頭に立たせて残りはそのあとを付いて行かせ、自分は群れの最後に位置し、背後から方向を指示していることは決して悟られないようにするという。これまでのリーダー像は、前に立って指揮をとるスタイルが主だった。だが先頭に立つのがいつでも同じ人である必要はない。場面に応じて、その分野に長けた人が先頭を行けばいい。ただし、集団をまとめていく役割を担うリーダーは常に必要。これが、背後から全体の様子を見ながら指揮をする新しいリーダーシップのスタイルだ。もちろん、リーダーが先頭に立ったほうがうまくいくケースもある。時と場合に応じて先頭にも背後にも立てる能力が、リーダーには求められる。マンデラ自身、基本的に背後からの指揮を選んだが、必要とあらば先頭でも指揮をした。
新任・異動店長を成功に導く5ステップ
新年度がスタートする。店長の異動や、ルーキー店長の誕生も多い時期だ。新たな店舗で活躍するためのステップを解説しよう。
- ステップ1.新しい店舗の組織になじむ
- ステップ2.内部の強み弱みを把握する
- ステップ3.組織を改革する
- ステップ4.チームワークを醸成する
- ステップ5.総括し、さらに改善する
新任・異動店長が真っ先に行うのは、店の組織になじむことだ。その中でも最優先すべきなのは、コミュケーション。自分とP/Aや部下社員との相互理解を図る上で、意志の疎通が何よりも重要となる。 赴任早々、店の問題点を挙げる店長がいるが、これは前任の店長を否定することにつながるので、避けるべきである。P/Aたちはまだ前任店長の影響を受けているのだ。店の良い点を探し、力を合わせてそれを伸ばしていこうという意気込みを伝え、コミュニケーションを深めていきたい。
次のステップでは、QSCのオペレーションレベル、P/Aのランクアップ状況、P/Aや部下社員の個別能力、チームワーク、店の風土などをチェックし、全員を対象とするカウンセリングも実施して、店舗内部環境の強み弱みを把握しよう。SWOT分析の手法を参考に現状を整理整頓し、次の一手を考えていこう。
ステップ2でつかんだ強み弱みを参考に、改善・改革への第一歩を踏み出そう。私がこれまで取材をしてきた実力店長たちの多くは、3カ月ほどで店を変革している。3カ月以内は前任店長の責任、それ以降はあなたの店としてあなたが責任を負うべきだ。勝負は100日、カギはP/Aの教育指導である。 最近取材した居酒屋チェーンの実力店長は、どの店に異動しても2ケタ成長させる強者で、「2:6:2の法則を、3カ月以内に8:2:0のレベルに高めるのが目標です」と語っている。優秀な店長は優秀なアルバイトリーダーを育てる。優れたP/Aが8割いる店になれば、組織は一変するのだ。
私がこれまで120人の実力店長に取材した中で最も多く語られたテーマは、チームワークである。お客様は店のムードを敏感に察知する。チームワークが良くて明るい雰囲気の店は、お客様に好感を持たれる。店の空気が売上をつくるのだ。 新任店長は店内のチームワークの現状をつかみ、向上させていく必要がある。プロジェクトチームを編成したり、ほめる仕組みや表彰制度をつくってP/Aのやる気を促すなど、みんなで店を盛り上げていく仕掛けを考えよう。
3カ月~半年かけて1~4までステップアップしたら、もう一度最初から検証してみよう。できなかったことや不十分なことはないか? 直すべきことは何か? どのように取り組むべきか? 統括と改善が必要だ。仕事は改善の連続なのだ。 「最近あなたは何を変えたか? どれだけ短期間で大きく変化させたか? それがあなた(店長)の仕事だ。あなたの部下社員やP/Aは、何を変えたか? ここ3日間、3週間、3カ月間で何を変えたか? あなたの改善計画の目標は、どのぐらい思いきったものか? 『正確なところ、何を変化させたか』という質問を、組織の中に浸透させよ」(トム・ピーターズ「エクセレントリーダー」より)
Ⅱ リーダーシップの特質と実力店長の事例につづく
※飲食店経営 2013年1月号特集コラム