特別編集記事
店長のリーダーシップにより自分が居なくても回る店舗のつくりかた
近年、ワンマネジャー(1人店長)店舗が増えているのを、本誌連載の実力店長シリーズの取材を通じて実感している。最近3年間に取材した店舗のうち3分の1は「社員1人店長」だった。業種や規模による違いはあるが、平均月商が500~600万円の店舗の場合、1人店長になる可能性が高い。シリーズに登場した実力店長たちはEQが高くてリーダーシップを備え、余裕を持って店舗運営をし、支障なく公休を取っている人が多かった。だが、P/Aの育成が遅れている店舗や定着率の悪い店舗におけるワンマネジャーの場合、休みどころか社内会議や勉強会に出席するために店を空けるのも心配になり、ますます厳しい状態に陥っていき、負のスパイラルから抜け出せなくなりがちだ。そこで本特集では、店長が不在でもスムーズに回る店舗のつくりかたを提案したい。
「ナンバー2」のリーダーシップ
店長が居なくても回る店舗をつくるために行うべき最優先事項は、ナンバー2となる優秀なP/Aの育成である。ナンバー2たるリーダーは、たとえP/Aであっても、全時間帯における全ての作業を熟知し、全員のスケジュール管理から発注、金銭管理、クレーム対応まで幅広く確実にこなせなければならない。つまり、店長はP/Aの能力や人間性を見極めつつ、ナンバー2を育成していく必要があるということだ。 さらにそのナンバー2の下には、ホールとキッチンそれぞれ2人ずつのサブリーダーが必要。ナンバー2が一人で頑張ることには無理があるからだ。リーダーやサブリーダーを育てるためには、ランクアップ制度が稼働していることが重要となる。 ナンバー2として成功するためには、次のような条件や能力が求められる。
- ステップその1:過信
- チームワークを醸成するリーダーシップがある。
- 全スタッフから尊敬されている。
- コミュニケーションを十分にとっている。
- トラブル時に冷静な判断ができる。
- ほめ方・叱り方がうまい。
- スタッフの教育・訓練が適切にできる。
- 店長に対する報・連・相が的確である。
ナンバー2に必要なスキル(知識と技術)
では、ナンバー2にはどの程度のオペレーションスキルや店舗マネジメントスキルが求められるのだろうか。
- メニューのスタンダードを知っており、レシピ通りの料理が提供できる。
- 的確なプレパレーションができる。(仕込み計画・必要数予測)
- キッチン全体をコントロールでき、ピークタイムでもスピーディーに商品提供できる。
- ピーク時に向けて、ホールの前準備が完璧にできる。
- ホール全体をコントロールし、お客様の流れや満足度を把握して、ホールスタッフに的確な指示ができる。
- ホールとキッチンのオープン作業・クローズ作業ができる。
- 棚卸し作業と発注作業ができる。
- 新人スタッフに対する初期トレーニングができる。
- 誠実な態度でクレーム対応ができる。
- 売上予測に基づいて、ワークスケジュール表を作成できる。
ナンバー2の教育中に店長のチェック&フォローが必要なのはもちろんだが、仕事を任せられるようになってからも、チェックだけは行うべし。あるチェーンでは、研修店舗での「店長代行卒業試験」を実施している。店長は一切指示を出さず、店長代行者(ナンバー2)に店を丸一日運営させるという実践的教育だ。ナンバー2の自主性に任せつつ、チェックは怠らずに、必要に応じてサポートしていく姿勢が店長に求められる。
デイリーチェック表の導入でP/Aを戦力化
ナンバー2の育成の次に重要なのは、P/A全体の能力アップと戦力化である。ある焼肉チェーンの店長(ワンマネジャー)は、全P/A用のデイリーチェック表を作成し、毎日自己チェックさせていた。内容は基本事項や新規事項、商品提供、中間サービス、重要事項、おすすめ獲得数など30項目。仕事に入る前に各自その日の目標を設定・記入し、シフトアップ時にチェックする仕組みだ。自分で目標を設定するため意欲的に取り組めるし、チェックによって自分の強みや弱みもわかる。弱い部分が明日(次回)の目標となり、一つずつクリアしていくことで優れたオペレーション力を作り上げていくことができるのだ。また、その日の目標達成度をパーセンテージで記入する欄も設けられ、日々のレベルの推移も確認できる。さらに、毎日のチェックのまとめとなる月度結果報告書も提出。チェック内容はデイリーと同様だが、それに以下の内容がプラスされる。
- 今月◎が付いた項目
- 今月できなかった項目とその理由
- 今月アピールできる、その他の実績
- 今月の感想
- 来月の◎目標項目とアピール目標
この報告書をもとに店長とP/Aが面談し、強みと弱み、目標の優先順位などについて話し合う。正社員1人体制でのP/A戦力化は必須。そのためには自ら考えて行動できる人材育成が重要だ。その意味でこのデイリーチェック表は、たいへん役立つ手段となる。
1人店長のリーダーシップ
ここで、「社員1人店長」自身のリーダーシップのポイントをまとめよう。
- 店長とナンバー2(P/Aリーダー)とのミーティングは毎日行う。
- マネジメントチーム(店長・リーダー・サブリーダー)のミーティングは毎週行う。
- 全員との面談(カウンセリング)は毎月行う。
- 全体ミーティングを毎月行い、ディスカッションによって具体的目標を決める。
- 「明日につながるノート」(連絡ノート)を活用し、店長とP/Aとが心を通わせる。
- 毎日全員に声をかけ、励ます。(ワンスマイル、ワンメッセージ)
- 毎日全員と携帯メール等による連絡を行い、情報の共有化を図る。
- リーダー・サブリーダーに任せた発注やシフト表は、必ずチェックする。
- プロジェクトチーム・QCサークルを稼働させ、P/Aの責任者を決める。
- P/Aが店長の姿を見て素直に共感できるほど、店に対する「愛着心」を人一倍持つ。
ある串焼居酒屋(社員1人店長)では、P/Aが自主的に活動するプロジェクトチームが稼働している。店長はP/Aに目標設定や活動の実施をすべて任せ、進捗状況をチェックするだけだ。また、あるカフェレストランの1人店長は、「一人一日一面談」を確実に実施していた。店長の想いに共感してもらうことや、P/Aひとり一人のやる気を促すことなどが目的である。このように、店長とP/Aとのコミュニケーションが十分にとれていれば、店長の仕事は驚くほどスムーズになるのだ。上記のポイントを参考に、店長が居なくてもラクラク回る店舗をつくっていただきたい。ガンバレ、ワンマネジャー!
※飲食店経営 2013年3月号特集コラム