特別編集記事

新人を3年で実力店長にする方法
−できる新人を育てるための8カ条−

新人や2年目の社員が成長すれば、彼らの指導に追われていた店長にもゆとりができ、店を進化させる様々な試みにもっと力を注ぐことができる。新入社員をいかに早く店長の補佐として活躍できるよう育成するか、またいかにすみやかに会社に貢献できる実力店長に育て上げるかは、店長やエリアマネジャーにとって大きな課題である。
 本特集では、期待のフレッシュマンを早期に戦力化して、3年以内に優れた店長にする方法をまとめてみた。新人教育のための具体的な行動指針となれば幸いである。

1 自社の経営理念・方針を理解させる

 「レストラン」は、“回復する”という意味を表すラテン語の「レストラーレ」が語源だといわれている。人々は家族や友人や恋人と一緒においしいものを食べ、楽しい時間を過ごして元気になるために飲食店を訪れる。飲食店とはつまり、おいしい料理をホスピタリティあふれるサービスで提供することにより、幸せや明日への活力を感じていただく場なのだ。そういう飲食店の使命を実感してもらえるよう、店長は新人を指導しなければならない。
 何より大切なのは、自社のビジョンや経営戦略などを把握させること。いずれ店長を目指す人が最初に頭にたたきこむべきことは、店舗運営のマスターでもオペレーションの精通でもなく、自社の理念である。まずは経営理念や方針、創業者の想い、社会の中で果たす役割などを理解し、共感することが重要なのだ。
 トップの考え方や会社のビジョンを熟知すれば、会社の夢に共感できる。店長は、店長会議などにおけるトップの発言や幹部の指示を、新人との面談などを通じてそれらを新人にしっかりと伝えていこう。「自社はこんなに社会貢献している。自分もその一員なんだ」と実感すれば誇りを持って働くことができ,会社へのロイヤリティも高まる。何よりもまず、会社を好きになってもらおう。

2 組織人としての心構えを持たせる

 会社にも店舗にも、社会人として守るべき就業ルールがある。礼儀正しい挨拶、出退勤時のマナー、上司に対する接し方などを、店長はきちんと新人に教えよう。
 挨拶は、よい人間関係を築くための第一歩。まずは「おはようございます」と明るく元気に大きな声で、相手の目を見て言えるよう指導しよう。さわやかな挨拶はビジネスマンの基本であることを肝に命じさせたい。
 元気いっぱいの「おはようございます」と、気持ちのいい「ハイ」の返事。たったこれだけで新人の評価は上がる。店舗の取引業者やパート・アルバイトスタッフに対しても挨拶を徹底させ、丁寧な態度で接するよう指導したい。ちなみに私は、声の大きさと明るい「ハイ」の返事だけで店長に昇進させてもらったようなものだと思っている。声を聞いただけで周囲が明るくなり、一緒に仕事をしたいと感じさせるような新人を育てたいものだ。

3、新人とのコミュニケーションを密にする

 外食産業の離職率は、3年間で約50%。30%程度という産業が多い中で、かなり高い数字だ。ハードワークや労働環境の問題はもちろん、店長や本部とのコミュニケーション不足も大きな要因になっていると私は思っている。
 コミュニケーションは、質のみならず「量」が重要だ。新人にはとにかく声をかけること。「おはよう」「頑張ってるね」「困っていることはない?」と、店長からどんどん話しかけよう。ひんぱんに声をかけられることで、新人は「自分のことを気にかけてくれている、存在を認められている」と実感できる。
 人間には、自分のことを価値ある存在だと思いたい欲求=自己重要感がある。常によいところを見つけてほめる、承認するなど、部下の自己重要感を満たしてあげられる店長でありたい。

<新人をやる気にさせる「ほめ方8カ条」>
 ・お世辞でなく心からほめる。
 ・よいことは小さなことでも見逃さずほめる。
 ・「あのときは私が助かった」「君が目標を達成して私もうれしい」というように、
   「私」を主語にしてストレートに気持ちを伝える。
 ・上司(エリアマネジャーや部長、トップ)に、新人のよいところをアピールする。
 ・早い時期からほめて、仕事に自信を持たせる。
 ・よい点は明確に評価してほめ、改善点は軽くクギを刺す。
 ・口頭だけでなく、メモ・カード・手紙を使ってほめる。

 ほめるのは、身につけさせたい行動を強化するためだ。新人は尊敬する店長にほめられたら嬉しいもの。だからこそ、行動をよく見てしっかりと評価しなくてはならない。
 私のクライアント先の大手飲食チェーンで、店の雰囲気やチームワークをよくするための目標設定と発表会を行った。各店長の目標は「スタッフの出勤時にワンスマイル・ワンメッセージで迎える」「スタッフへの声かけの量を3倍にする」「ありがとうを1日20回言う」「ほめ合える環境を高めるため、サンクスカードを活用する」など多様だったが、いずれも「ほめる」「認める」にまつわることだった。その結果、店の空気がよくなって売上の向上した店舗が続出。コミュニケーションの量と売上が正比例するという好例である

4、店長が模範となり、根気よく教える

 あなたは新入社員に、自分の知識や技術を惜しみなく教えているだろうか。またあなたの動作や仕事に対する姿勢は、新人の模範になっているだろうか。あなたが模範的な行為・態度で日々の仕事に臨めば、新人はそれを見習う。自分がやったほうが早いなどと思わずに根気よく指導し、少しずつ仕事を任せていこう。オープン作業でも、発注でも、ワークスケジュール作成でもいい。任されれば責任感が生まれる。責任を持ってやりきった小さなことを積み重ねていけば、確実に新人は育っていく。
 新入社員が求める理想の上司像のグラフを見ていただきたい。1位は人格が尊敬できる人、2位は仕事をよく指導してくれる人、3位はリーダーシップがある人、となっている。堂々の1位に君臨する「尊敬」される人とは、誠実で前向きで笑顔を絶やさない人のこと。尊敬される店長とは、ズバリ次のような店長である。

 ・部下の価値を認め、成長を願ってサポートしてくれる店長
 ・常に部下に目を配り、長所も短所も把握して適切に指導してくれる店長

5、QSCの基本を徹底させる

 超優良企業セブンイレブンの企業戦略のカギは、「変化への対応と基本の徹底」である。これは飲食店にとっても同様だ。中でも基本中の基本はQSC。質の高いおいしい料理、ホスピタリティあふれる気持ちのよいサービス、磨き上げられた清潔な店内、この3つの要素を向上させることが飲食業の原理原則であり、繁盛店づくりの基本なのだ。そして、どの店が基本をより徹底させられるかという「徹底力の差」こそが、競争の本質である。
 私はクライアント先のトップや教育担当者からしばしば、新入社員教育の際には何よりもQSCに集中させてほしいとの依頼を受ける。集中して量をこなさなければ、基本の作業はマスターできない。トップたちはその重要性を身にしみて感じているのだ。
 パイロッットの技術力は飛行時間の長さで決まると言われるように、新人に不足しているのは体験した時間、つまり量である。量は途中から必ず質に変わる。新人時代の3年間に現場で量をこなして体で覚えたことは、後々まで決して忘れない。それがやがてあらゆる判断の礎(いしずえ)となる。まずはQSCの作業を確実に体得させよう。

6、店舗マネジメント知識に精通させる

 新人を3年間で店長に育て上げるには、3つの能力を高める教育が必要だと私は考える。

<店長に求められる3つの能力>
1.店舗オペレーション能力
店舗におけるすべての作業やサービスをこなすための、QSCオペレーションレベルを向上させていく専門的技能のこと。テクニカル・スキルともいう。
2.マネジメント能力
チェーンストアでは店長のことを「店舗資産が要求する必要営業利益高責任者」と定義する。スタッフを教育し、顧客満足度を向上させ、客数を増やし、経費をコントロールして、利益を上げることができる人を店長と呼ぶのだ。
3.リーダーシップ能力
人間力(人間的魅力)のこと。ヒューマンスキルともいう。店舗のメンバーにモチベーションを与え、やる気を盛り立てる力である。店長自ら常に元気で前向きな態度を心がけ、スタッフを信頼して全員に関心を持ち、いつも声をかけ続けることで、自然に身に付いてくる能力だ

店長を目指すには1,2,3のすべてを磨かなければならないのだが、中でも2のマネジメント能力は、的確な指導と本人のたゆまぬ学習がなければ身につかない。新人に対し、店長がしっかりとマネジメント知識を教えていく必要がある。
 まずは店のP/L(損益計算表)を理解させよう。原価率は適正か。ロスはどの程度か。水道光熱費は節減されているか。人件費率やその他の諸経費はしっかりコントロールされているか。人時売上高・人時生産性・労働分配率・労働生産性などの労務管理の数値は適正か。毎月のミーティングの中で新人と共にこれらの計数管理を行い、今月の行動目標に反映させていくことで、マネジメント能力は確実に磨かれていく。
 店舗マネジメント知識に精通すれば、店長業務への理解が一層深まるのだ。

7、リーダーシップを身につけさせる

 前述した3つの能力のうちⅢのリーダーシップは、人を動かしてオペレーションやマネジメントを遂行する上で不可欠な、リーダーとしての資質が問われる重要な能力である。
 新人の場合、まず自分自身が成長することが最優先だが、リーダー(店長)になったら部下(スタッフ)を成長させることが使命となる。店内によい雰囲気を醸成してチームを導くのがリーダーの役割。店をコントロールできるかどうかはこのリーダーシップ能力にかかっていることを、みなさんはよく承知しておられるだろう。
 では、新人のリーダーシップ能力を高めるにはどうすればよいのか。

 ・スタッフ全員の手本になるようなモデル作業を身につけさせる。
 ・全員の前で、明るい笑顔と大きな声で挨拶させる。
 ・朝礼や全体ミーティングの司会やまとめ役をさせる。
 ・新人アルバイトの教育担当をさせる。(教える技術を学ばせる)
 ・スタッフ全員の長所や得意分野を把握させる。

 また新人が「こんな店長になりたい」「店長になったらこんな店をつくりたい」という想いや具体的なイメージを持てるよう、日頃から夢を与える指導をしていただきたい。私的な話で恐縮だが、私が開講している「実力店長養成講座」の最後に総合テストを行い、ラスト問題で「理想の店づくりへの想い」を記入してもらっている。その想いの強さこそが、実力店長への道の第一歩なのだ。

8、自己投資が未来をつくることを理解させる

 私の店長セミナーにおいて、「自分自身のモチベーションを維持するにはどうしたらよいか?」という質問が実に多く寄せられる。この問題点には明らかな理由が一つある。それは、その人が明確な夢や目標を持っていないからだ。将来の自分の姿を想像していなければ、モチベーションなど保てない。
 店長は、スタッフが目標を持てるようリードすべきだ。新人に対しても、何年後に店長になりたいか、10年後に自分はどうなっているだろうかといった、ビジョンを聞いてあげてほしい。ビジョンを持つことができれば、それに向かって前向きに進んでいくことができるし、そのためにさまざまな自己投資をする意欲も起きる。
 自己投資とは、読書習慣の確立、新聞の通読、店舗見学、専門分野の研究、セミナー参加、先輩の話を聞く機会を増やす等々、いろいろな方法で人間形成を行うことである。
 また新人には、人とは違う得意分野を持たせることも重要。得意なことがあれば自信となり、積極的にその専門分野について勉強するだろうし、やがて店内ナンバー1、将来的には社内ナンバー1のスペシャリストに育つ可能性もあるのだ。
 他人との違いを見極めることで、個性というものが見えてくる。その人に課せられた使命も浮かび上がってくる。愛情をこめて新人に接することでそれらを引き出すお手伝いをするのも、店長の重要な役割である。

<人が成長するための3つのポイント>
 ・座学(学びの姿勢)
 ・師(店長、SV、部長、トップの影響)
 ・修羅場(自分の能力以上の壁を乗り越えていく力)

 新人が伸びるかどうかは、最も身近にいる店長の力にかかっている。店長はそのことを自覚し、この8カ条を参考に、愛情いっぱいに新人を育ててほしい。「人を育てる」のが店長の仕事であることに、誇りを持っていただきたい。現店長のみなさんに期待しています。

2015年4月号特集コラム

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