特別編集記事

スーパー店長が行っていること ~ できる店長に共通する5つのポイント ~

 シリーズ「実力店長はここが違う」の取材を続けて15年。第一線で活躍する、185人ものスーパー店長の生の声を聞いてきた。取材のたび、仕事に対する真摯な姿勢や情熱、人柄のすばらしさ、スタッフを想う気持ちの深さに心を打たれた。店が大好き、スタッフが大好き、会社が大好き。大好きに勝るものはない。店長が愛情をもってスタッフに接するから、スタッフもお客様を愛するようになる。それが極上のサービスへと繋がっていくのだ。  スーパー店長たちには優れた共通点がある。5つのポイントを解説しよう。

1.人間力があり、常に笑顔で前向き

 最も大切なのは店長の人間的魅力だ。スタッフは店長の人間性を見ている。いつも全員に関心を持ち、一人ひとりを気遣い、笑顔で元気づけてくれる店長を、スタッフは信頼する。特に異動まもない店長に対し、スタッフは期待と不安の両方を抱いている。新任店長が自分の考えだけで新しいことを進めようとしても、スタッフは付いてきてくれない。
 ある実力店長は、異動後すぐに全員と面談して一人ひとりの考えをしっかり聞き、よい意見は翌日にでもすみやかに実行した。「今度の店長は仕事が早いし、私たちの意見も聞いてくれる」とスタッフが実感すれば、心の距離は一気に縮まるのだ。
 びっくりドンキーの実力店長が他店へ異動することになった際、一人の主婦パートナー(アルバイトリーダー)からもらった手紙(要約)を紹介しよう。
 「4年前に店長が着任した頃、私はあまり仕事にやりがいを感じていませんでした。でもその後、小さなことに対しても一心不乱に取り組む店長を見てきました。何事にも真正面から向き合い、受け止め、考え、誠意を見せてくれる店長の姿勢、そしてたくさんのお心遣いや温かいお言葉とお手紙に、深く感謝しています。(中略)店長からいただいたスタッフリーダー(時間帯責任者)の肩書きを噛み締め、仲間たちにとっても良き存在となれるよう、私なりに頑張ってみます。本当にありがとうございました」
 努力を惜しまない店長の姿を見続け、温かい言葉や手紙で日々刺激を受け、普通のP/Aが大きく成長できたことと、店長への感謝の気持ちが、文面を通して伝わってくる。

 コヴィー博士は著書「7つの習慣 成功には原則があった」の中で、人間の信頼関係を銀行口座の残高に例え、信頼が増えることを“預け入れ”、減ることを“引き出し”と述べている。蓄えが多ければ信頼度も増し、たとえ引き出して残高に余裕があれば問題ない。スーパー店長たちは常にその高い人間性を駆使して、残高を増やす努力をしているのだ。

2.コミュニケーション能力が高い

 売上前年比を毎年110~130%向上させている実力店長たちにその理由を聞くと、第一は「チームワーク」である。チームワークがよければ店の雰囲気がよくなり、それがお客様に伝わってリピーターを増やす。店の空気が売上を作るとは、まさにこのことだ。
 チームワークを支えるのは良好なコミュニケーション。コミュニケーションは、質にも増して量が大切である。声かけ3倍で、スタッフとの人間関係をアップさせよう。

コミュニケーションには、大きく分けて次の2種類がある。
◆仕事で成果を出すためのコミュニケーション
1,テンションの高い、本気の朝礼・夕礼 2,スタッフ全員で行う全体ミーティング 3,伝言板・連絡ノート 4,LINEでの情報共有化 5,給与明細書に添える、店長からのサンクスレター 6,定期的な個人面談
◆信頼関係を築くためのコミュニケーション
1,仕事中のちょっとした合間の声がけ(1分間コミュニケーション)
2,休憩時の会話(様々な話題でのふれあい:仕事とは直接関係ない話でよい。スタッフの趣味の話で盛り上がったり、悩みを聞いたりすることで、絆は深まっていく)

 ベビーフェイスの実力店長は「人に強い」ことで信頼を寄せられている。その最大の秘訣は「1人1日1面談」にある。毎日P/Aの誰かと10分程度の面談をしているのだ。問題がある場合は30分~1時間かけて行う。店長の想いを伝えつつ、スタッフの意見や考えを引き出すためだ。メモを取りながら真剣にスタッフの話を聞くのがポイント。「P/Aの声にならない声をいかにしっかりと聞き取るか、そこが店長の腕の見せどころです。それができれば、店長の仕事は驚くほどスムーズになります」と語ってくれた。

 ふれあう回数が増えるほど印象や好意が高まる効果のことを「単純接触効果」(ザイアンスの法則)という。人は関心を寄せてくれる人に対して関心を持つし、相手を知れば知るほど好意を持つのである。

3.教育訓練を徹底している

 提供するQSCのレベルが高ければ、お客様の満足度や評価も高くなる。このため店長は優秀なP/Aを採用して教育訓練を行い、モチベーション向上に努める必要がある。
 スーパー店長のもとでは、スーパーアルバイトが育つ。P/A教育とお客様担当の両方をこなす、あるイタリアンのスーパーアルバイトは、300人以上の常連客に手を振って挨拶でき、親しく会話できる。名前を呼べるお客様の数は社員よりも多い。指名予約や、お客様からいただくお礼の手紙も多い。
 あるコーヒーショップチェーンの実力店長は、スタッフ全員に毎月の個人目標を掲げさせ、それを一覧表にしてスタッフルームに掲示している。「見本となる接客をして全員の接客レベルを向上させる」「春フェア成功のため、有機コーヒーを売りまくる」「常に店内美化を皆に伝える」と、その目標レベルは高い。
 また、あるオイスターバーの女性店長は、スタッフ全員に責任ある役割を与えている。例えば、ホールとキッチンそれぞれのクレンリネス担当、ホームページを更新するウェブ担当、発注担当、新人教育担当、オープン・クローズ作業のマニュアル作成担当など。責任者なので、社員にも指示が出せるという。
 仕事を任されることでスタッフの責任感は向上し、店へのロイヤリティーも高まっていく。スーパー店長たちは「店長の仕事は人を育てること」だと認識しているのだ。

4.“すぐやる”行動力がある

 仕事ができる人とは、すぐ実行する人のこと。これは店舗運営にとって重要なことだ。私は店長セミナーで、「スマイルシール」(笑顔のすばらしさを競うコンテスト)や「ありがとうカード」「全体ミーティング」などを活用した成功事例を話すのだが、これを聞いてすぐに実践し、その成果を私に報告してくれる店長がいる。そういう店長たちの店はたいてい、その企業内でもトップクラスの成績を誇る繁盛店だ。
 10年以上前の話だが、がんこフードサービスに、どの店に異動しても売上前年比を125%向上させるスーパー店長がいた。お客様との名刺交換は2年で4000人以上。500人以上の常連客を認識していた。名刺交換したら、翌日にはお礼のため訪問。この訪問営業活動を毎日4時間おこなっていた。名刺交換した人(法人)全員を訪問するのだ。その後このスーパー店長は独立し、現在は5店舗を運営するオーナー社長である。
 実行しなければ何も変わらない。速やかに、かつ果敢に行動するのがスーパー店長だ。

5.向上心と明確な目標がある

 世の中には「なりゆき人間」と「目標人間」がいる。なりゆき人間は目覚めたら会社に行き、それなりに一生懸命働く。帰宅し、風呂に入ってビールを飲み、食事をして寝る。毎日この繰り返し。目標人間は、短期と長期の目標を作って実際に行動する。目標達成のために読書し、尊敬する先輩から学び、セミナーで学ぶ。5・10・20年後になりたいと思う自分になることを目指して前進する。(※参考文献「経営者の心得」新将命・著)
 実力店長の取材時には毎回、将来の夢や目標を伺っている。明確な答えが返ってくる店長が多い。飲食店で独立する、会社が成長したら社内アカデミーの学長になる、営業責任者になって若い店長を育てる、等々。10人の店長が、現在の飲食チェーンの社長になると答えた。頼もしい限りだ。目標を達成するため、彼らは向上心をもってビジネス書を読んだり、繁盛店を見学したり、外部セミナーや社内勉強会に積極的に参加したりしている。
 夢を叶えるには自己投資が大切。時間とお金をかけて自分を磨こう。「汝の行動は汝の予言者」である。日々の努力の差が何年も積み重なって、大きな差となるのだ。

2016年5月号特集コラム

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